「やってみたけど、うまくいかない」の本当の理由
「PDCAを回しているはずなのに、なぜか成果が出てこない」
「毎年似たような施策を繰り返しているが、根本的な改善には至っていない」
このような声は、多くの企業現場で耳にする悩みです。
業績を改善するためにPDCAに取り組んでいたつもりでも、「P(Plan:計画)」の段階で見落としがある場合、その後のD(実行)・C(評価)・A(改善)がうまく機能せず、施策が“やりっぱなし”になってしまっていることがその原因となりえます。
PDCAは単なるフレームワークではなく、ビジネスにおいて行動を成果に結びつけるための“習慣”です。
そして、その起点である「計画」こそが、成功と失敗の分かれ道になっているのです。
なぜ「P(計画)」が最重要フェーズなのか?
PDCAの各ステップにはそれぞれ重要な役割がありますが、特に「P」は他の3ステップの方向性を定める基盤となります。
この地図が曖昧だったり、そもそも誤った目的地を設定していたりすると、どれだけ優秀な人材が実行(D)しても、努力は空回りし、期待された成果は得られません。
計画でよくある3つの落とし穴
1. ゴール設定が曖昧
計画の前提となる目標設定、すなわちゴール設定をする際に「売上を上げたい」「業務効率を良くしたい」など、抽象的な内容を設定してしまうと、何を・いつまでに・どのように達成すればその目標にたどり着けるのか明確にすることはできません。
こうした曖昧な設定を脱して明確にしていくためには、「営業利益を前年比+10%達成するために、既存顧客からのリピート売上を20%増加させる」など、具体的かつ測定可能な目標にする必要があります。
例えば、「コストダウンする」ではなく「○○○を、■■■時点で、▲▲▲(額・率)だけ削減する」といった内容にすることや、「生産性を向上する」ではなく「○○○のプロセスについて、1工程にかかる工数を■■■(時間・労働力)だけ削減する」や「○○○について、同じ対応時間で昨年度比■■■(量・率)だけアウトプットを増やす」といった内容で設定することが重要になってきます。
2. 現状把握が不十分
「おそらくこうだろう」「去年もこうだったから」という思い込みに基づいて計画を立てる、業務を最も把握している担当者と形だけの目標設定をしようとする上司との意識ギャップが生じてしまう、そうした形で実態とズレが生じてしまうと、実行段階でつまずくことになります。
業務改善を計画するなら、実際の作業時間、ミス発生件数、担当者の業務負荷といった具体的なデータを収集し、それらを誰が、どんなアクションで、どのように改善していくのかを地に足をつけて検討する必要があります。
3. 実行可能性が考慮されていない
ゴールから設計することは素晴らしいことなのですが、あまりにも現実離れした理想的な計画を立てても、実際に取り組む現場のリソースや社員が保有するスキル、到底対応不可能なスケジュール感で取組むことになれば、形骸化してしまうことは明らかです。
よくあるのが、複数プロジェクトが同時並行で進む中で「とりあえず計画だけ作っておいて」と現場に丸投げしてしまい、現実味のない目標を立ててしまうケースです。このような計画では、実行時に誰からも協力は得られず、また、主体的に取り組むこともないため形だけのPDCAに終わってしまいます。
良い計画のための3つの鉄則
1. SMARTの原則を活用する
目標は以下の5つを満たす必要があります。
- S(Specific):具体的である
例:「営業成績を上げる」ではなく、「既存顧客への訪問件数を週5件に増やす」など、誰が何をするのかが明確であること。 - M(Measurable):測定可能である
例:「売上を伸ばす」ではなく、「月間売上を20%増加させる」など、達成度を数値で判断できるようにする。 - A(Achievable):現実的に達成可能である
例:「今月中に全国展開」は現実的でない可能性があるため、「まずは関西エリアで3店舗増やす」など、現実に即した設定にする。 - R(Relevant):目的や戦略に関連している
例:「SNSのフォロワー数を増やす」が直接売上に結びつかない場合、それよりも「新規問い合わせ件数を月10件増やす」方が業務目標に沿っているといえます。 - T(Time-bound):期限が明確である
例:「今年中に」では曖昧すぎるため、「9月末時点では○○○まで、12月末時点では■■■まで達成する」といった具体的な期限を設けることで、実行計画が立てやすくなります。
このようにSMARTの各要素を満たすことで、計画は抽象的な理想から、実行可能な目標へと変わります。この原則に基づいた目標設定をするだけで計画の精度が大きく向上するので、ぜひ取り入れましょう。
2. 仮説と検証の視点を取り入れる
計画段階では、「こうすればうまくいくはずだ」という見通しや期待を持つことが自然です。しかし、その期待を単なる“希望”で終わらせないために必要なのが、「仮説と検証」の視点です。
仮説を立てることで、「なぜその施策を選ぶのか」「それがうまくいくと考える根拠は何か」が明確になります。単なる思いつきや過去の成功体験に頼るのではなく、現状と目的を論理的につなげる道筋が生まれます。
また、計画段階で「どうなったら成功なのか」「どこで見直しをかけるのか」といった検証ポイントをあらかじめ設定しておくと、実行中に軌道修正しやすくなります。特に不確実性の高い施策では、「小さく試す」前提での計画が有効です。
3. 現場との合意と共有を前提にする
どれだけ素晴らしい計画を立てても、現場が「やらされ感」を持っていては、実行の質は上がりません。計画が形骸化する原因のひとつに「現場との乖離」があります。
スムーズな合意形成を図るためには、計画を立てる段階で、実行の担い手となる現場メンバーを巻き込むことが重要です。ヒアリングやワークショップを通じて、「何が課題か」「どこに無理があるか」「どんな工夫が有効か」といった現場の知恵を反映させることで、計画の実行可能性と納得感がグンと高まります。
なお、巻き込む際に単に「これをやってください」と伝えるだけでは実行のモチベーションは上がりません。なぜこの計画が必要なのか、自分たちの仕事とどうつながっているのかを共有し、その計画を進めるための“意味づけ”を実施することで、行動の質を変化させることができます。
計画は「未来をコントロールする技術」
多くのビジネスパーソンは「実行」に目が行きがちですが、実は「計画」の時点で80%が決まるという言葉もあるほど、Pの段階が重要です。
この「計画づくり」こそ、企業の成果と持続的成長の鍵を握っています。計画とは単なる準備作業ではなく、目的地に向けた最適ルートを描き、組織が一丸となって進むための“未来設計”です。行動の方向性を定めることで無駄な努力や迷走を防ぎ、成果の再現性を高めます。
計画はまた、静的な文書ではなく組織内の認識を合わせる“対話のツール”でもあります。現代のような変化の激しい時代には、柔軟に軌道修正できる仮説ベースの計画が必要とされます。完璧な初期案よりも進捗を見ながら調整できる構造が成果を生むのです。
つまり、計画は未来を偶然に委ねず、自らの意思で方向性を決定するための極めて実践的かつ戦略的な技術だということを理解して、良いPDCAを回せるよう良い計画を描いていきましょう。