2026年10月改正 同一労働同一賃金への対応を整理

目次

パート社員・有期雇用契約者の待遇差について、説明できますか?

「“正社員の人には家族手当が出ているのに、なぜ私には出ないんですか?”とパートさんから聞かれて、うまく答えることができなかったんです。」

当事務所には最近、こうしたご相談が続けて寄せられています。
パートタイマーや契約社員(有期雇用契約者)と正社員との待遇の違いをどこまで説明できるか。この問いは、2026年10月1日を境に、多くの中小企業にとって避けて通れないものになりました。

2026年10月1日から、パートタイム・有期雇用労働者に関するルールが変わりました。雇い入れ時や契約更新時に渡す労働条件通知書に「正社員との待遇差について説明を求めることができる」旨を明記することが必要になり、あわせて「同一労働同一賃金ガイドライン」も、施行から5年を経て見直されました。

厚生労働省の「労働経済動向調査」(令和6年11月時点)によれば、同一労働同一賃金に向けて「取り組んでいる」または「取り組んだ」事業所は64%にとどまります。また、労働政策研究・研修機構(JILPT)の調査(2023年)では、待遇差について会社から説明や書面の交付があった人のほうが、仕事への満足度が高いという結果が出ています。つまり、こうした説明が、トラブル防止のためだけでなく、働く人の納得感と定着にも関わる取り組みに繋がっているともいえます。

この記事では、中小企業診断士の立場から、今回の改正のポイント、とくにガイドラインに追加された待遇ごとの「問題となる例・問題とならない例」を整理したうえで、中小企業が今から取り組むべき対応ステップを解説します。

※本記事は、2026年10月時点で公表されている法令・ガイドライン等に基づき、一般的な情報を提供するものです。

2026年10月、雇用に関するルールは何が変わったのか

(1) 改正の全体像は「3本柱」

今回の改正は、パートタイム・有期雇用労働法(正式名称は「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」)の条文そのものを変えたものではありません。2026年4月28日に公布された省令と告示(国が定める指針)の改正で、2026年10月1日から施行・適用されています。中身は次の3本柱です。

改正の柱内容企業に求められること
① 施行規則(省令)の改正雇い入れ時の労働条件明示事項に「待遇の相違の内容・理由等に関する説明を求めることができる旨」を追加労働条件通知書の様式を変更する
② 同一労働同一賃金ガイドラインの改正賞与、退職手当、家族手当、住宅手当、無事故手当、福利厚生(病気休職、夏季冬季休暇、褒賞など)の記載を充実・追加。待遇全般に共通する留意事項も追加賃金規程・手当・休暇制度を点検する
③ 雇用管理指針の改正待遇差の説明方法、福利厚生施設の利用に関する便宜の供与、正社員転換制度等に関する情報の公表などを追記説明資料と説明体制を整える

対象は、パートタイマーや有期雇用の契約社員を1人でも雇用しているすべての企業です。企業規模による猶予はありません。

(2) なぜ今、見直されたのか

同一労働同一賃金のルールは、大企業では2020年4月、中小企業では2021年4月から適用されています。厚生労働省は、施行から5年が経過したことを受け、2025年2月から労働政策審議会の部会で見直しの議論を進めてきました。

見直しの背景には、大きく2つの流れがあります。

1つ目は、最高裁判決の積み重ねです。
2018年以降、正社員と有期雇用労働者の待遇差をめぐって、住居手当・家族手当・夏期冬期休暇・病気休暇・退職金・賞与などについて最高裁の判断が相次ぎました。一方で、これまでのガイドラインには退職手当や家族手当、住宅手当について原則となる考え方が示されていませんでした。今回は、これらの判例を踏まえて記載が加えられています。

2つ目は、「説明」が十分に機能していないことです。
待遇差について説明を求める権利は2020年(中小企業は2021年)から法律に定められていましたが、JILPTの労働者調査(2023年)では、回答者1万人のうち6,831人が、説明を求めたこともなく、勤め先から説明や書面等の交付を受けたこともないと答えています。今回の改正は、労働者が説明を求めやすくする方向に舵を切ったものといえます。

労働条件通知書に「説明を求められる」旨が必要に

(1) 追加された明示事項と記載例

パートタイム・有期雇用の社員を雇い入れるとき、これまでも次の4項目を文書の交付等で明示する必要がありました。

  • 昇給の有無
  • 退職手当の有無
  • 賞与の有無
  • 相談窓口

ここに2026年10月1日から、5つ目として「待遇の相違の内容・理由等に関する説明を求めることができる旨」が加わりました。違反した場合は10万円以下の過料(行政上の制裁金)の対象となります。

厚生労働省の資料では、労働条件通知書への記載例として、「次の窓口に対して通常の労働者との間の待遇の相違(内容・理由)等について説明を求めることができる」という文言とともに、部署名・担当者職氏名・連絡先を記載する形が示されています。「通常の労働者」は、「正社員」など自社での呼び方に置き換えてもかまいません。

ここで見落としやすいのが、契約更新時も対象になるという点です。
有期雇用の社員は、契約更新のたびに労働条件を明示し直すことになるため、施行日以降に更新を迎える人から順に、新しい様式の通知書を渡す必要があります。「新しく採用する人だけ」と考えていると、対応漏れが起きます。

(2) 「説明義務」は以前から。変わるのは「聞かれる頻度」

誤解されやすいのですが、待遇差の説明義務そのものは今回新設されたものではありません。パートタイム・有期雇用労働法第14条第2項により、パートタイム・有期雇用の社員から求めがあった場合、事業主は正社員との待遇の相違の内容・理由などを説明しなければならないと以前から定められています。説明を求めたことを理由に解雇などの不利益な取扱いをすることも禁止されています(同条第3項)。

では、何が変わるのでしょうか。

労働条件通知書に「説明を求めることができます」と書かれるようになれば、社員がこの権利を知る機会が確実に増えます。つまり、「いつか聞かれるかもしれない」から「いつ聞かれてもおかしくない」状態に変わるということです。

(3) 説明が不十分だと「不合理」の判断材料になりうる

もう1つ、ガイドラインに新しく加わった重要な一文があります。事業主が待遇差について十分な説明を行わなかったと認められる場合や、パート・有期社員の意向を十分に考慮せずに一方的に待遇を決めた場合には、その事実自体が、待遇差が「不合理」と判断される方向の事情として考慮されうる、というものです。

これは、説明が単なる手続きではなく、待遇差が適法かどうかの判断にも影響しうることを意味します。「聞かれたら、そのときに考えればよい」という姿勢は、これまで以上にリスクが大きくなったといえます。

ガイドラインに追加された待遇を総点検する

ここからは、今回のガイドライン改正で記載が追加・充実された待遇を1つずつ見ていきます。ガイドラインは、待遇ごとに「原則となる考え方」を示したうえで、「問題となる例(不合理と判断されうる例)」と「問題とならない例」を挙げる構成になっています。

なお、事業者様からご相談を受ける際、心配ごととして非常に多く挙げられるご不安に関して、押さえておきたい考え方が1つあります。

同一労働同一賃金は、「パートと正社員の待遇を全部同じにせよ」というルールではありません。待遇ごとに「その手当や制度は、何のために支給しているのか」(性質・目的)を確認し、その目的がパート・有期の社員にも当てはまるのであれば、同じ扱いをするという考え方だということです。

何でもかんでも正社員と同じにするという事ではなく、この視点を元に、自社の制度を照らし合わせて必要に応じて手を打っていくという考え方で、以下を読み進めてみてください。

(1) 賞与:「全員に何らかの賞与」を出しているなら要注意

賞与のうち、会社の業績等への貢献に応じて支給するものは、正社員と同じ貢献をしているパート・有期社員には、同じ賞与を支給する必要があります。貢献に違いがあれば、その違いに応じた賞与を支給することになります。

区分ガイドラインが示す例(要旨)
問題となる例正社員には、職務の内容や業績への貢献にかかわらず全員に何らかの賞与を支給しているが、パート・有期社員には支給していない
問題となる例正社員と同じ貢献をしている有期社員に、正社員と同じ賞与を支給していない
問題とならない例生産効率や品質の目標に責任を負い、未達成の場合に待遇上の不利益がある正社員には賞与を支給し、そうした責任や不利益のない社員には、その見合いの範囲内で支給していない

今回の改正では、賞与には「労務の対価の後払い」「功労報償」「生活費の補助」「労働意欲の向上」など、さまざまな性質・目的が含まれうることが明記されました。そのうえで、パート・有期社員にもその目的が当てはまるのに、職務の違いなどに応じた均衡のとれた賞与を支給しておらず、その見合いとして労使交渉を経て基本給を高くしているといった事情もない場合は、不合理と認められうるとされています。

中小企業でよく見られるのが、「正社員には寸志程度でも必ず賞与を出すが、パートには一切出さない」という運用です。賞与の目的を説明できないまま、この運用を続けている場合は見直しの対象になります。

(2) 退職手当:初めて考え方が明記された

退職手当(退職金)は、これまでガイドラインに原則となる考え方が示されていない待遇でした。今回、新たに記載が追加されています。

内容は賞与と同じ構造です。退職手当には「労務の対価の後払い」「功労報償」などの性質・目的が含まれうるとしたうえで、正社員と同様にパート・有期社員にもその目的が当てはまるにもかかわらず、職務の違いなどに応じた均衡のとれた退職手当を支給しておらず、その見合いとして労使交渉を経て基本給を高くしているなどの事情もない場合は、不合理と認められうるとされています。

注意したいのは、「正社員と同じ退職金を払わなければならない」とまでは書かれていない点です。一方で、「パート・有期だから退職金はゼロ」という扱いを説明なしに続けることは、リスクのある状態になったといえます。長期間にわたって契約更新を繰り返している有期社員がいる会社は、とくに点検が必要です。

(3) 家族手当:「更新を繰り返している」有期社員は対象に

家族手当(扶養手当)も、今回新たに原則が示された待遇です。

区分ガイドラインが示す例(要旨)
原則労働契約の更新を繰り返している等、相応に継続的な勤務が見込まれるパート・有期社員には、正社員と同一の家族手当を支給しなければならない
問題となる例正社員には家族手当を支給しているが、契約更新を繰り返すなど相応に継続的な勤務が見込まれる有期社員には支給していない
問題とならない例正社員には支給しているが、契約更新を繰り返していないなど、相応に継続的な勤務が見込まれない有期社員には支給していない

家族手当は、長く勤める社員の生活を支えるという目的で支給されていることが多い手当です。そのため、「契約期間がある」ことだけを理由に支給しないのは説明がつきにくくなります。判断の分かれ目は、雇用形態ではなく「継続的な勤務が見込まれるかどうか」です。

あわせて、配偶者の収入要件がある「配偶者手当」については、パートタイマーの就業調整(いわゆる「年収の壁」を意識した働き控え)の要因になっていると指摘されていることから、労使の話し合いによって、働き方に中立的な制度へ見直すことが望まれる、という注記も加わりました。

(4) 住宅手当:「転勤がある正社員だけ」の実態が問われる

住宅手当のうち、転居を伴う配置の変更(転勤)の有無に応じて支給するものについて、新たに原則が示されました。

区分ガイドラインが示す例(要旨)
原則正社員と同一の転居を伴う配置の変更があるパート・有期社員には、正社員と同一の住宅手当を支給しなければならない
問題となる例「転勤が見込まれるから」という理由で正社員に住宅手当を支給し、有期社員には支給していないが、実態としては正社員にも転勤を命じていない
問題とならない例転勤が見込まれる正社員には支給し、転勤が見込まれない有期社員には支給していない

この「問題となる例」は、中小企業にとって身近な話です。就業規則上は「正社員は転勤あり」となっていても、事業所が1か所しかない、あるいは実際には何年も転勤者が出ていない会社は少なくありません。規程上の建前ではなく、運用の実態で判断されるという点を押さえておく必要があります。

なお、転勤の有無にかかわらず支給している住宅手当についても、待遇差が不合理であってはならないことが注記されています。

(5) 無事故手当:業務が同じなら同額

運送業などで支給されることの多い無事故手当についても、記載が新設されました。正社員と業務の内容が同一のパート・有期社員には、正社員と同一の無事故手当を支給しなければならないとされています。

無事故手当は、安全運転や事故防止を促すための手当です。この目的は、雇用形態に関係なく同じように当てはまります。同じ車両で同じルートを走るドライバーに、正社員かどうかで差をつけている場合は、見直しが必要です。

(6) 病気休職・夏季冬季休暇・褒賞:休暇や表彰も対象

福利厚生の分野でも、記載の追加・充実が行われました。

待遇原則となる考え方(要旨)問題となる例・問題とならない例(要旨)
病気休職有期社員にも、契約が終了するまでの期間を踏まえて病気休職を認める。正社員に休職期間中の給与保障をしている場合、相応に継続的な勤務が見込まれるパート・有期社員にも同一の保障を行う問題となる例:正社員には休職中の給与保障を行い、契約更新を繰り返している有期社員には行っていない。
問題とならない例:契約期間1年の有期社員の休職期間を、契約終了日までとしている
夏季冬季休暇パート・有期社員にも、正社員と同一の夏季冬季休暇を付与する問題となる例:繁忙期に限定された短期間の勤務ではない有期社員に、正社員と同一の夏季冬季休暇を付与していない
褒賞一定期間勤続した社員に与える褒賞(永年勤続表彰など)は、同じ期間勤続したパート・有期社員にも同一に付与する具体例の記載はなく、原則のみが示されています。
一般的に永年勤続表彰は10年単位等の場合が多く、一律に適用する場合であっても、有期雇用契約者の対象者数自体が限定的である場合が多いです。

夏季冬季休暇(お盆休み・年末年始の特別休暇など)について、ガイドラインの「問題となる例」が対象から外しているのは、繁忙期に限定された短期間の勤務です。継続して働いている有期社員に正社員と同じ休暇を与えていない場合は、早めの見直しが必要です。

永年勤続表彰も見落とされがちな項目です。「10年勤続で記念品」といった制度の対象を正社員に限定している場合、同じ年数勤めているパート・有期社員も対象に含める必要があります。

(7) 福利厚生施設:利用条件の差にも目を

食堂・休憩室・更衣室といった福利厚生施設について、同じ事業所で働くパート・有期社員にも利用を認めることは、以前からガイドラインに示されていました。今回の改正では、利用料金や割引率などの利用条件についても、不合理な差を設けてはならないことが明記されました。

たとえば、社員食堂の補助額や、提携施設の割引率を正社員だけ優遇している場合は、その理由を説明できるか確認しておきましょう。

(8) 待遇全般に共通する留意事項

個別の待遇に加えて、すべての待遇に共通する考え方も整理・追加されました。中小企業の実務に影響が大きいものを5つ挙げます。

① 定年後再雇用であることだけでは、待遇差は正当化されない

定年後に有期契約で再雇用された社員にも、パートタイム・有期雇用労働法は適用されます。職務の内容や配置の変更範囲に実際の違いがあれば、それに応じた待遇差は認められますし、定年後再雇用であることも判断材料の1つにはなります。しかし、「定年後再雇用だから」という理由だけで、ただちに待遇差が不合理でないと認められるわけではありません。改正前は賃金に関する注記でしたが、今回、賃金に限らず待遇全般に共通する留意事項として明記されました。

② 差を埋めるために正社員の待遇を下げるのは、基本的に望ましくない

待遇差を解消する目的は、パート・有期社員の待遇改善です。そのため、正社員の労働条件を不利益に変更するのではなく、パート・有期社員の労働条件を改善することが求められています。やむを得ず就業規則の変更で正社員の労働条件を引き下げる場合は、労働契約法の定めに沿って原則として労働者の合意が必要であり、合意がない場合も変更に合理性が求められます。そのうえで、こうした対応(不利益変更)は基本的に望ましいとはいえない、とされています。

③ 「正社員の人材確保のため」だけでは理由にならない

「正社員として働ける人材を確保し、定着させるため」という目的は、これまで待遇差の理由としてよく使われてきました。今回の改正で、そうした目的があることだけで、ただちに待遇差が不合理でないと認められるものではないことが明記されました。いわゆる「正社員人材確保論」に頼った説明は通用しにくくなっています。

④ 「役割期待が違う」という抽象的な説明では足りない

正社員とパート・有期社員で待遇の決め方(決定基準・ルール)が違う場合、「将来の役割期待が異なるため」といった主観的・抽象的な説明では足りず、客観的・具体的な実態に照らして判断されることが、賃金以外の待遇も含めて整理されました。

⑤ 新しい区分を作っても、比較から逃れることはできない

低い待遇水準の「新たな正社員区分」を設けたり、正社員とパート・有期社員の仕事を形式的に切り分けたりしても、もともとの正社員との間で不合理な待遇差の解消が求められることが示されています。

一覧で確認:待遇ごとの点検ポイント

ここまでの内容を、点検用の一覧表にまとめます。

待遇改正の扱い見直しが必要になりやすい運用点検のポイント
賞与記載の充実正社員には全員に寸志を出し、パートには一切出さない賞与の支給目的を言葉にできるか
退職手当新規追加長期勤続の有期社員も一律に退職金なし勤続年数・更新回数の実態
家族手当新規追加更新を繰り返す有期社員を対象外にしている継続的な勤務が見込まれるか
住宅手当新規追加「転勤あり」が理由だが、実際は正社員も転勤がない転勤の実績・見込み
無事故手当新規追加同じ業務のドライバーに雇用形態で差がついている業務内容が同一か
病気休職記載の充実休職中の給与保障を正社員だけに適用している継続勤務の見込み・契約期間
夏季冬季休暇新規追加継続勤務の有期社員に規定された休暇や特別休暇がない短期・繁忙期限定の勤務か
褒賞新規追加永年勤続表彰を正社員に限定している勤続期間を通算しているか
福利厚生施設記載の充実食堂補助・割引率に雇用区分で差がある利用条件の差の理由

いかがでしょうか。1つでも思い当たる項目があれば、次の章以降の内容とあわせて点検を進めてみてください。

「説明の仕方」まで問われる時代に

(1) 認められる2つの説明方法

雇用管理指針の改正では、待遇差を説明するときの方法が具体的に示されました。次のいずれかの方法で説明することとされています。

  • 資料を活用し、口頭で説明する方法
  • 説明すべき事項をすべて記載した、分かりやすい内容の資料を交付する方法

口頭で説明する場合も、使った資料を交付することが望ましいとされています。資料の交付が難しい場合でも、後から求めがあったときに閲覧できるよう工夫することが求められていますが、当事務所では、実務の現場では資料を交付することを推奨しています。
その理由として、説明を実施する担当者が異なる、説明時間として確保できる時間が異なる、説明を受ける方の慣れ・不慣れによって理解度が異なるなどの要因によって「言った・言わない、聞いた聞いてない」といった差が生じるからです。

なお、この差は、説明を実施する人と説明を受けた人の間で起こるだけではなく、説明を受けた人同士(契約社員AさんとBさんとの間など)でも生じる可能性があります。「私はそんな話はされなかった。」という誤解が生じる懸念を払しょくするために、まずは説明すべき事項をすべて記載した、分かりやすい内容の資料の作成から進めていきましょう。

(2) 求めがなくても、更新時に資料を渡すのが望ましい

さらに、パート・有期雇用契約社員から説明の求めがない場合でも、契約更新時などに待遇差の内容・理由をまとめた分かりやすい資料を交付したり、説明を求められることを周知したりすることが望ましい、とされました。説明すべき内容は、たとえば次のようなものです。

  • 比較対象となる正社員との間で、待遇の決め方に違いがあるか。違う場合は、どう違うのか、なぜ違うのか
  • 教育訓練の実施や福利厚生施設の利用にあたって、何を考慮したか
  • 正社員への転換を進めるための措置を決めるにあたって、何を考慮したか

こうした説明内容を自ら示していくことが、真摯に対応しているという姿勢を表明することにも繋がります。

(3) 正社員転換制度の情報公表

正社員転換制度については、制度の内容や転換の実績を労働者に明示するよう努めることや、ウェブサイトなどで定期的に公表することが望ましいとされました。

正社員への転換実績を公表することは、採用面でのアピールにもなります。「頑張れば正社員になれる会社」であることを示せれば、パート・有期雇用契約社員の求人時において、意欲の高い人材の応募を後押しするとともに応募者の安心感にもつながります。

中小企業の現場で起きがちな4つのつまずき

ここまで改正内容を見てきましたが、実際に対応を進めようとすると、多くの会社が同じところでつまずきます。ご相談を受ける中でよく見られるパターンを4つご紹介します。

(1) 「パートさんだから」という理由で手当の対象外にしている

手当や休暇の対象を決めるとき、雇用区分、いわゆる「正社員」か「パート」かで線を引いている会社は少なくありません。創業時からの慣習で、なぜそうなっているのか誰も説明できないというケースもよく見かけます。ここで大事なのは「全部の手当を対象にする。」という判断をするということではなく、あらためて支給理由を明確にすることで、支給対象となる・ならないの判断を正しく再認識することです。

そのために必要なのは、手当ごとに「何のために支給しているのか」を言葉にすることです。目的を書き出してみると、パート・有期雇用契約社員にもそのまま当てはまる手当が意外に多いことにも気づくはずです。なお、こうした整理を行う際に、あわせて現在の手当の体系を見直す企業も増えてきています。

(2) 定年後再雇用の賃金を「一律○割」で決めている

「定年後は一律で現役時代の6割」といったように、仕事の中身を見ずに再雇用後の賃金を決めている会社は多くあります。定年前と同じ部署で、同じ仕事を続けているのに賃金だけが大きく下がる場合、今回明記された「定年後再雇用であることだけでは正当化されない」という考え方に照らして、説明が難しくなります。

再雇用後に何を担ってもらうのか、役割や責任の範囲をどう変えるのかを整理し、それに応じた賃金を設計することが求められます。

(3) 現場の管理職が説明できない

パート・有期雇用契約社員が最初に疑問を口にする相手は、多くの場合、人事担当者ではなく直接の上長となる現場の課長等です。その管理職が「会社の決まりだから」としか答えられなければ、不信感は一気に高まります。

法改正でも示されている説明の窓口を明確にするとともに、現場の管理職が「どこまで答え、どこから窓口につなぐか」を事前に共有しておくことが大切です。

(4) 差を埋めるため正社員の手当を削ろうとする

人件費を増やさずに対応しようとして、「正社員の家族手当を廃止すれば差はなくなる」と考える経営者の方もいらっしゃいます。しかし、先に述べたとおり、ガイドラインはこうした対応を基本的に望ましくないとしています。多くは不利益変更となるため、正社員のモチベーション低下、それに伴う離職者の増加や、労使トラブルにもつながりかねません。

正社員の手当を見直す場合は、賃金制度全体の再設計の中で、基本給への組み替えや経過措置を含めて慎重に検討する必要があります。

待遇の見直しは「コスト」か「投資」か

(1) まずは人件費への影響を「見える化」する

経営者の方が最も気にされるのは、「結局、人件費がいくら増えるのか」という点ではないでしょうか。ここは感覚ではなく、数字で把握することをおすすめしています。
たとえば、次のような会社を想定して試算してみます(数値はすべて仮定です)。

  • 有期雇用の契約社員が20人在籍しており、そのうち契約更新を繰り返している人が12人
  • 12人のうち、正社員の基準で家族手当(月1万円)の対象となる人が6人

この場合、家族手当だけで「6人×1万円×12か月=年72万円」の追加となります。
同じように、賞与、退職手当、休暇などについて、待遇ごとに対象人数と金額を積み上げていくと、全体の影響額が見えてきます。金額が見えれば、「一度にすべて実施するのか、段階的に進めるのか」「どの待遇から優先して見直すのか」といった経営判断ができるようになります。感覚ではなく現実で見るというのが、見直しの第一歩です。

(2) 最低賃金・社会保険の改正と一体で考える

2026年10月は、同一労働同一賃金の改正だけでなく、パート・有期雇用契約社員の人件費に関わる変更が重なっています。厚生労働省によれば、地域別最低賃金は10月から順次改定され、全国加重平均は1,177円となりました。また、短時間労働者が社会保険(厚生年金・健康保険)に加入する際の賃金要件(月額8.8万円、いわゆる「106万円の壁」)の撤廃も、10月の制度変更として示されています。

これらを個別に対応すると、時給を上げ、社会保険料を負担し、さらに手当を見直し、と場当たり的にコストが積み上がりがちです。パート・有期雇用契約社員の処遇を「総額」で捉え直し、時給、手当、賞与、社会保険をまとめて設計し直すことで、限られた原資を有効に配分できます。また、これらとあわせて、「今のままの運営体制でいいのか」という点から、採用・配置などを見直すことも検討できます。

(3) 「説明できる待遇」は人材確保の武器になる

人手不足が続く中、パート・有期雇用契約社員は多くの中小企業にとって欠かせない戦力です。先に紹介したJILPTの調査では、待遇差について会社から説明があった人、とくにすべての内容に納得できた人ほど、仕事への満足度が高い傾向が示されています。

待遇の見直しを「法令対応のためのコスト」とだけ捉えるのはもったいないことです。仕事の中身と待遇の関係を説明できる会社は、パート・有期社員にとって「長く働きたい会社」になります。 定着率が上がれば、採用や教育にかかるコストも抑えられます。

そして、待遇差を説明するためには、「正社員とパート・有期雇用契約社員の仕事や責任は、何がどう違うのか」を整理する必要があります。これは、等級制度や評価制度といった人事制度の土台そのものです。今回の改正を、自社の人事制度を見直すきっかけとして活用してみてはいかがでしょうか。

今日から始める対応5ステップ

ここからは、具体的な進め方を5つのステップで整理します。

Step1:雇用区分と待遇の棚卸しをする

正社員、パートタイマー、契約社員、嘱託(定年後再雇用)など、社内にある雇用区分をすべて洗い出します。そのうえで、区分ごとに基本給、賞与、各種手当、退職金、休暇、福利厚生、教育訓練の適用状況を一覧表にまとめます。
最初は難しく作り込む必要はなく、〇・△・×といった水準からまとめ、比較して見ることができる状態にするだけでも、違いを確認するという意味では十分な資料となります。

Step2:比較対象の正社員と「仕事の違い」を整理する

パート・有期雇用契約社員ごとに、比較対象となる正社員を決め、次の3点の違いを整理します。

  • 職務の内容(業務の内容と責任の程度)
  • 職務の内容・配置の変更の範囲(異動や転勤の有無・範囲)
  • その他の事情(成果、能力、経験、労使交渉の経緯など)

ここで大切なのは、規程上の建前ではなく、実態で整理することです。なお、職務内容や役割の違いは、ただ単に現状だけを見て比較するのではなく、将来の幅の広がりや能力開発への期待値など中長期的な時間軸で差がないかどうかについても考慮します。

たとえば、現時点では同じ組織でまったく同じ事務作業を担当している方同士を比較する場合であっても、現状のまま業務内容・範囲と責任の程度が限定される契約社員の方と、将来的に業務内容や範囲の拡大のための異動や責任を持つポジションへ着くための成長が期待されている正社員の方とでは、そこには違いがあると判断できるでしょう。

Step3:待遇ごとに「目的」と「差の理由」を点検する

Step1の一覧表の待遇ごとに、「何のために支給しているのか」を書き出します。そして、その目的に照らして、Step2で整理した違いから待遇差を説明できるかを確認します。前章の点検ポイント一覧表を活用してください。

Step4:見直しの方針と原資計画を立てる

説明が難しい待遇差が見つかったら、見直しの方針を決めます。人件費への影響を試算し、優先順位と実施時期を決めます。正社員の待遇を引き下げる方向ではなく、パート・有期雇用契約社員の待遇を改善する方向で検討することが基本です。

Step5:通知書・説明資料・説明体制を整える

労働条件通知書の様式を改訂し、待遇差について説明を求められることと、その窓口を明記します。あわせて、待遇差の内容と理由をまとめた説明資料を準備し、直属の上長となる現場の管理職とも説明の進め方を共有します。待遇の見直しに合わせて目的を再整理した場合、内容によっては仕事に向き合う姿勢などについてあらためて説明する必要があるからです。
また、賃金規程や就業規則の変更が必要となることもあります。

セルフチェックリスト:自社の対応状況を確認しましょう

次の10項目のうち、「いいえ」「わからない」がいくつあるか数えてみてください。

  1. 施行日以降に交付する労働条件通知書に、待遇差の説明を求められる旨と窓口を記載している
  2. 契約更新時に交付する通知書も、新しい様式に切り替えている
  3. 社内の雇用区分ごとに、適用される賃金・手当・休暇の一覧表がある
  4. 各手当について「何のために支給しているか」を言葉で説明できる
  5. 契約更新を繰り返している有期社員の家族手当・退職金・病気休職の扱いを点検した
  6. 住宅手当の支給理由と、実際の転勤の実績が一致している
  7. 継続勤務の有期社員にも、正社員と同じ夏季冬季休暇・慶弔休暇を付与している
  8. 定年後再雇用者の賃金を、仕事の内容や責任の変化に基づいて決めている
  9. 待遇差の内容と理由を記載した説明資料がある
  10. 現場の管理職が、待遇差について質問されたときの対応方法を知っている

「いいえ」「わからない」が3つ以上あった場合は、早めの点検をおすすめします。

当事務所では、このチェックリストの結果をもとに、どこから手をつけるべきかを一緒に整理する支援をさせていただくことも可能です。「どこから手をつければよいかわからない」という段階でも、お問い合わせフォームよりお気軽にご相談ください。

使える公的支援も上手に活用する

待遇改善の取り組みには、国の支援策も用意されています。費用負担を抑えながら進めるために、あわせて確認しておきましょう。

  • キャリアアップ助成金:有期雇用社員等の正社員化や、正社員と共通の賃金規定の導入、賞与・退職金制度の導入などに取り組む事業主を支援する助成金です。「賃金規定等共通化コース」「賞与・退職金制度導入コース」など、同一労働同一賃金への対応と関係の深いコースがあります。支給要件や金額は年度ごとに変わるため、厚生労働省のウェブサイトで最新情報をご確認ください。(リンク:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/part_haken/jigyounushi/career.html)
  • 働き方改革推進支援センター:全国47都道府県に設置されており、同一労働同一賃金に向けた賃金規定の見直しや助成金の活用について、無料で相談できます。(リンク:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000198331.html)
  • 不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル:厚生労働省が公開しているマニュアルで、基本給、賞与、各種手当、教育訓練、福利厚生について点検の手順が示されています。業界別のマニュアルもあります。(リンク:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_03984.html)
  • パートタイム・有期雇用労働法等対応状況チェックツール:厚生労働省の「多様な働き方の実現応援サイト」で公開されており、自社の取り組み状況をオンラインで点検できます。(リンク:https://part-tanjikan.mhlw.go.jp/shindan2/)

助成金は、制度を整えた後に申請するのではなく、取り組みを始める前に計画書の提出などが必要なコースがあります。
制度変更の内容は助成金の申請要件を満たしていたのに手続きをしていなかったから助成金の対象とならなかったというケースも少なくありません。制度の見直しを検討する段階から、活用できる支援策を確認しておくことをおすすめします。

まとめ:「説明できる待遇」が選ばれる会社をつくる

2026年10月の改正で、パート・有期社員の待遇は「差があるかどうか」だけでなく、「その差を説明できるかどうか」が問われるようになりました。最後に、要点を振り返ります。

  • 労働条件通知書に「待遇差の説明を求められる」旨と窓口の記載が必要になった(契約更新時も対象)
  • ガイドラインに、賞与、退職手当、家族手当、住宅手当、無事故手当、病気休職、夏季冬季休暇、褒賞などの考え方と、問題となる例が追加・充実された
  • 定年後再雇用、正社員の待遇引き下げ、「正社員人材確保論」についての留意事項が明記された
  • 説明が不十分なこと自体が、待遇差を不合理と判断する材料になりうることなった

対応には手間がかかりますが、待遇の目的を整理し、仕事と処遇の関係を言葉にする作業は、自社の人事制度の土台を固めることにもつながります。パート・有期雇用契約社員が納得して長く働ける会社は、人手不足の時代に確実に強くなります。

法改正への対応は、単なるコンプライアンス対応にとどまらず、自社の働き方や人事制度を見直す絶好の機会でもあります。当事務所では、待遇差の点検から、手当・賃金制度の見直し、待遇差の説明資料づくり、管理職向けの説明研修まで、事業会社における豊富な人事業務ノウハウと中小企業診断士の視点で経営と人事の両面からご支援しています。

「うちの手当は大丈夫だろうか」「パートさんに聞かれたときにどう答えればよいか」といった段階から、初回は無料でご相談いただけます。まずは現状をお聞かせください。

*無料相談は毎月社数を限定させていただいております

参考資料

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著者

Wisteria Gate 代表
経済産業大臣登録 中小企業診断士
独立行政法人 中小企業基盤整備機構 中小企業アドバイザー(経営支援)

人と組織の活性化で明るい未来を創造する人事支援の専門化。人材開発・組織開発・評価制度および賃金制度、採用ブランディング、人材育成など人事全般に関する強みを保有。数百名規模の事業会社における戦略人事・PMI・人事責任者等を経て獲得したノウハウと、製造業・商社・サービス業など幅広い分野で培った経験に裏打ちされた“現場がわかるコンサルタント”として中小企業の人事課題の解決に取り組んでいる。

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