人事評価制度の不満を解消するために取り組むべきこと

目次

人事評価制度への不満は大きなリスクをはらむ

「評価制度に納得できない」「努力が報われない」「上司の主観で評価されている気がする」
このような従業員の声を、多くの企業で耳にします。

評価への不満は、モチベーション低下・組織への不信感・離職といった形で顕在化し、企業パフォーマンスに悪影響を与える要因となっており、民間調査の結果において、評価に満足していない人のうち、離職を考えたことがある人は70%をも超えるという結果が示されているデータもあります。
本記事では、こうした人事評価制度に対する不満を解消するため、各企業においてどのようなポイントを整理しながら対応を進めていくべきなのか、具体的な対策について、実践的な視点で整理していきます。

1. 「評価の不公平感」が生まれる本質はどこにあるのか

評価制度に対する不満を生む主要な要因について整理していきます。これらの要因のうち、どこに問題がありそうなのかを分析・把握することにより適切な対策を検討することができるようになります。

(1) 評価基準の曖昧さ

自分の仕事の成果に対して「何をもって評価されているのか分からない」と感じてしまう社員は少なくありません。これは、評価項目や尺度が曖昧であるか、具体的な行動レベルにまで落とし込まれていない場合に起こります。
特に、定性項目と呼ばれる「協調性」や「主体性」といった指標について、抽象的なキーワードのままで評価項目が設計されていると、評価者の恣意的な考え方や基準により判断が分かれてしまい、人によって同じ成果であっても評価結果が異なってしまうため、被評価者目線では納得感が低下してしまう要因となります。

(2) 評価者のマネジメント行動の不足

評価者となる上司が日常的に部下の行動を十分に観察していない場合、目に見えてハッキリとした実績(売上・利益や経費削減額)等を用いる評価しか実行できず、その他の項目について「印象評価」によって評価を実施してしまうことになります。日常から仕事を通じて部下とコミュニケーションをとる機会を設けていないと、いざ評価を実施する際に判断材料を持っていなかったり、判断すべき材料の判定根拠が無いといった状態におちいるため、評価者としても自信を持って評価をつけることができなくなります。
また、判断材料が曖昧な状態に加えて、評価フィードバックを実施するためのスキルが不足している場合には、部下に対して「なぜその評価結果なのか」を適切に伝えることもできず、更なる不満や誤解を助長する結果となります。

(3) 評価結果と報酬・昇格の連動性の低さ

頑張って仕事の成果をあげ、良い評価を獲得したとしても、それらが昇給・昇格に結びつかない場合、社員から見れば「頑張る意味がない」「やってもやらなくても同じ」と感じてしまいます。無論、賃金への反映だけが評価のすべてではありませんが、評価制度は、報酬やキャリアの仕組み、働く意欲を向上させる動機付け支援とセットとなることで、初めて納得感のあるものになります。

2. 人事評価制度を見直して不満を減らすための施策

人事評価制度への不満を解消するための効果的なアプローチとして、フレームワークやセオリーに従って整った制度を構築するだけでは片手落ちの状態となります。実際には「人事評価制度そのものの再設計」に加えて、「運用プロセスの見直し」が不可欠です。この点を踏まえて、以下に具体的な代表施策を3つご紹介します。

(1) 明確かつ基準を定められる評価指標の設定

評価項目は、業務の成果(定量)だけでなく、行動・能力・価値観(定性)などもバランスよく設計する必要があります。全社共通の項目のみで運用する方法もありますが、職種別に設計することで働く社員の目線でも具体的に自分の仕事と結び付けて評価を考える事ができるようになります。

※参考 職種別の評価項目として判定しやすいもの

  • 営業職:成果(売上・利益・契約締結数)+行動(顧客との関係構築、新規開拓アクション、商品企画・提案等)
  • 技術職:成果(プロジェクト達成率、納期遵守、品質向上)+能力(技術知識、問題解決力、プロセス改善、対外貢献)
  • 事務職:成果(経費削減額、生産性向上実績)+行動(社内プロセス改善提案、サポートサービス強化、専門知識獲得)
  • 管理職:部下育成、組織目標達成度、事業戦略推進、他部門連携、コンプライアンス遵守

定性的な評価項目については、組織として求める行動を明文化することが有効です。たとえば管理職の行動評価として、人材育成の枠内に組織コミュニケーションの向上を掲げるのであれば「部下との1on1を月1回以上実施」「グループウェアを活用した情報共有促進活動」「部門横断プロジェクトへの参加」などの具体的な行動に落とし込むことで客観性が向上します。

また、評価期間の開始タイミングでOKR(Objectives and Key Results)やMBO(目標管理)などの目標管理手法を活用することで、何が評価対象でどの程度の水準を期待しているのかをあらかじめ確認することにより、成果指標の透明性を高めることができます。

(2) 評価者の評価スキルと人材育成能力の強化

人事評価制度の運用には、評価者となるマネジャーのレベルアップが不可欠です。知識の習得のみで対応可能なテクニカルスキルだけではなく、意識・行動に関してもマネジメント人材としての働きが求められます。

※参考 管理職のレベルアップに向けて実施すべきアクション

  • 評価者研修の実施:評価の目的・基準の共有、バイアス回避、フィードバックの重要性に関する理解を深める
  • 1on1の定期実施:部下とのコミュニケーション機会の創出、定期的に部下と対話し評価理由の納得感を高める
  • 評価材料の蓄積:日々の行動観察を簡単にでも良いので記録する、良い材料・悪い材料の両方について記録する

また、スパン・オブ・コントロールという言葉がありますが、上司1人に対して部下の数が多すぎると、きめ細かい評価が難しくなります。適切な人数は業務形態や組織形態によって異なりますが、多すぎると感じられる場合は、配置や評価業務の分担・補助者の設置なども検討しましょう。

(3) フィードバックの質を高める

評価結果を伝えるフィードバックは、人事評価制度の運営で欠かせない項目となります。伝え方次第で、本人の成長機会や動機付けになる場合もあれば、逆に著しくモチベーションの低下を引き起こす原因になってしまうこともあります。フィードバックの質を高めるために特に注意すべき点は以下のとおりです。

  • 具体的な根拠を示す:いつの、どんなことが、どのような点で良かった/悪かったのかを明示する
  • 今後への期待を伝える:もう一段成長するために何が必要か考えさせる/改善点を見出し具体的な行動を考えさせる
  • 評価面談を対話型に:双方向のコミュニケーションを図り、視座や視野、視点の違いに配慮しながら対話する

傾聴姿勢などのテクニカルな対策もコミュニケーションを円滑化させる効果はありますが、フィードバックを実施する本質的な理由である「人材育成」の観点を基盤として、これらのポイントについて評価者は押さえて置く必要があります。

3. 人事評価制度の見直しのためのアクションリスト

人事評価制度の不満を解消するため、制度の見直しを着手する場合に必要となる実践的なアクションについて、代表的な手順となる項目について以下のとおりまとめます。自社内部で制度改訂を実行する際の参考にしていただければ幸いです。

Step1:現状分析で現状の課題を洗い出す

  • 評価対象者へのアンケートやヒアリングで不満点を洗い出し言語化・明確化する
  • 評価者・マネジャーからも制度の「使いにくさ」や課題を収集する
  • 給与や賞与との連携における課題を整理する

Step2:改訂目的となるポリシーを設定する

  • 企業としてどのような価値観を大切にするのか整理し、ポリシーを決定する
  • 組織として達成したい状態を思い描き、そのためには何を重要視すべきなのか整理する
  • 理想の社員像や社員に目指してもらいたい姿を描き、それを体現するために何が必要か整理する

Step3:人事評価制度を再設計する

  • 評価原則・考え方の決定(成果主義、能力主義、職務型、勤続・年功、生活保障)
  • 評価指標の見直し(等級・職種・役職に応じた設計、行動評価の観点等)
  • 評価項目の明文化と評価基準の具体化
  • 成果と行動の評価バランスの整理(階層別の設計等も検討可)

Step4:評価者・被評価者への研修・支援体制の整備

  • 評価者研修プログラムの整備(評価者としてあるべき像、評価エラー排除、フィードバック・面談スキル向上)
  • 被評価者研修プログラムの整備(制度の目的、目標設定、テクニック、自己成長のための挑戦)
  • フィードバックの場を人事評価制度として仕組み化(目標設定、フォロー、評価結果フィードバック等)
  • 対象者数によりシステム化・評価支援ツールの検討(クラウド型評価システム等)

Step5:運用のPDCAを回す

  • 制度運用後の効果検証(エンゲージメントサーベイ、離職率の推移など)
  • 制度運用コストの確認(評価者工数、結果集計コストなど)
  • 運用と改善を両輪で回しながら定着させる

単純に制度を再構築すればよい訳ではない

ここまで解説してきましたが、人事評価制度への不満をなくすには、単なる制度の見直しだけでは不十分です。
人事評価制度をどのような目的で改訂するのかを全社で理解したうえで、評価者が主体的に制度の運用に協力し、双方向のコミュニケーション文化を創り上げていく事にしっかりと取り組むといった点が重要になります。評価を通じて信頼と成長を促進することが、納得感の高い人事評価制度の構築に繋がり、結果としてエンゲージメントの向上と企業の持続的成長に直結します。まずは現場の声に耳を傾けることから、改善の一歩を踏み出しましょう。

社員からみて納得感の高い人事評価制度を構築することは、エンゲージメントや定着率を向上させるだけではなく、採用市場などにおける企業のブランド力向上にもつながります。そうすると、優秀な人材が集まりやすくなるといった好循環を生み出すことも期待できます。
なお、人事評価制度の設計に関して自社にノウハウが無いため力を借りたい、自社で取組みたいがアドバイザリーをお願いしたいといった直接的なご依頼のほか、ご相談事項として具体的な導入事例や、人事評価制度の改訂支援、賃金制度との連携などに関してさらに詳しい情報を知りたい方はぜひお気軽にお問い合わせください。
社員が「辞めたくない」と思う会社へと進化するために、人事の専門知識を保有するコンサルタントとして、貴社に合った最適解を見つけるお手伝いをいたします。

著者

Wisteria Gate 代表
経済産業大臣登録 中小企業診断士
人と組織の活性化で明るい未来を創造する人事支援の専門化。人材開発・組織開発・評価制度および賃金制度、採用ブランディング、人材育成など人事全般に関する強みを保有。数百名規模の事業会社における戦略人事・PMI・人事責任者等を経て獲得したノウハウと、製造業・商社・サービス業など幅広い分野で培った経験に裏打ちされた“現場がわかるコンサルタント”として中小企業の人事課題の解決に取り組んでいる。

目次