法改正の背景と概要
2026年度には、約40年ぶりとなる労働基準法の大幅改正が予定されています。(i)
今回の改正は、近年の働き方改革や社会情勢を受けて長時間労働の是正と労働環境の改善を一括で進める位置付けにあり、厚生労働省の研究会報告書では「早期に取り組むべき事項」が複数示されており、具体的には、残業規制の強化や勤務間の休息確保、「つながらない権利」への対応など、働く人の健康と生活を守るための内容が中心です。
多少の修正や施行時期の調整はあり得るものの、同趣旨の改正が近い将来、はやければ2027年4月より施行される可能性は極めて高いと考えられます。そのため、中小企業としては「成立してから考える」のではなく、今から改正の方向性を把握し準備を進めておくことが肝要ですので、今回は各論点について取り上げたいと思います。
背景にある社会的な3つの要素
- 深刻な人手不足と長時間労働の蔓延
多くの業種で人手不足が続き、その結果一部社員に仕事と残業が集中しがちです。長時間労働による過労死やメンタル不調、若手の早期離職など深刻な問題も表面化しています。 - 働き方の多様化
副業解禁やフリーランス人口の増加、テレワーク普及など、正社員一筋ではない働き方が広がっています。現行の労基法は旧来の働き方を前提としており、新しい働き方を法的にどう保護・管理するか見直しが求められています。 - 健康と休息を重視する機運の高まり
「勤務間インターバル」や「つながらない権利」といった概念に象徴されるように、世界的に労働者の休息時間の確保への関心が強まっています。日本でも過労死問題などを契機に「働かせ方」の見直しに対する社会の期待が高まっています。
以下では、経営者や人事・労務担当者が特に注目すべき改正ポイントを中心に、具体的な内容とその背景、実務への影響、そして必要な対応策について解説します。「何もしないまま施行日を迎える」と、最も影響を受けやすいのは中小企業です。自社の状況に照らし合わせながら、今のうちから備えを進めましょう。
時間外労働の上限規制:改正内容とその背景
時間外労働(残業)規制の強化に関する改正ポイント
2019年の働き方改革関連法で、残業時間の上限は原則「月45時間・年360時間(特別な事情がある場合でも年720時間等)」と法律上明確化されました。しかし、依然として労使協定(36協定)の特別条項による上限超えや、週単位・日単位では長時間労働が温存されているケースもあります。2026年改正では、この「抜け穴」的な部分にメスを入れる規制強化が検討されています。主な改正点は次のとおりです。
- 週44時間労働の特例廃止
現行法では、一部の小規模事業や特定業種(商業、旅館業など)に限り法定労働時間が週44時間まで認められる特例があります。しかし調査では約87%の事業場はこの特例を活用しておらず、実効性に乏しいうえ労働時間管理を複雑にする要因でした。改正案では法定労働時間を全業種一律で週40時間とし、週44時間特例を廃止する方向です。
これにより、中小企業であっても週40時間を超える労働はすべて残業扱いとなります。今まで特例で週44時間まで所定労働させていた事業場では、人員配置やシフトを見直さない限り残業代コストが増加する見込みです。零細企業への急激な影響を緩和するため経過措置(猶予期間)の検討も示されています。 - 連続勤務日数の上限設定(「14連勤」禁止)
「4週4日の休日」という現行制度上の特例運用によって、理論上は最長24日間も連続勤務が可能でした。例えば休日を月初にまとめて取らせれば、その残り約24日間は休みなしで働かせることもできてしまうのです。(8週だと48日間も可)
当然ながら労働者の健康に極めて危険なため、改正案では連続勤務は最大13日までに制限されます。14日以上続けて働かせること自体を法律で禁止し、強制的に休日を入れなければなりません。
実は労災(特に精神障害)の認定基準でも「2週間(14日)以上の連続勤務」は強い心理的負荷要因とされています。この「14日」という数字には医学的・労災基準的な根拠もあるのです。改正により、繁忙期だからと「3週間ほぼ休みなしでフル稼働」といった働かせ方は明確にアウトとなります。 - 勤務間インターバル(休息時間)の義務化
「勤務間インターバル制度」とは、前日の勤務終了から翌日の勤務開始までに一定以上の休息時間を空けるというルールです。改正案では、このインターバル確保を努力義務から義務へ引き上げ、その長さも原則11時間とする方向で議論が進んでいます。ヨーロッパ等の諸外国の基準と同様ではありますが、「通勤・食事・入浴・家事・家族団らんに数時間、そして7~8時間の睡眠」を確保すると逆算してそれくらいになるためです。
実務上では、「昨夜23時まで残業して、翌朝8時に出勤」という働き方だとインターバルは9時間しかなく、日常生活や睡眠に十分な時間が確保できません。このような働かせ方は改正後はできなくなります。終業が23時なら翌日の始業は少なくとも10時以降にしなければ違法になるということです。
一見当たり前のようですが、実現できていない企業は意外に多いのが実情です。現状では勤務間インターバル制度を導入している企業は全体のわずか6%程度に留まり、努力義務ゆえ後回しにされがちでしたが、義務化されればタイムカードやシフトの運用を抜本的に見直す必要があります。 - 管理監督者を含む労働時間管理の徹底
現行制度でも、管理監督者は残業代支払い義務が免除される代わりに労働時間規制の適用対象外ですが、この適用範囲の見直しや運用強化も議論されています。改正案では、少なくとも管理監督者であっても労働時間の客観的把握を義務付ける方向が有力です。タイムカード等で勤務状況を記録し、「管理職だからノーチェックで好きなだけ働かせる」ということが許されにくくなります。
また、「名ばかり管理職」対策として管理監督者の範囲基準を明確化し、役職名より実態重視(権限の有無、年収水準、裁量の大きさ等)で判断する議論もあります。役職に見合わない待遇や労働実態であれば、その社員は管理職とみなされず残業代支払い義務が発生する可能性が高まります。特に、中小企業では店長やリーダーに名義上の管理職扱いで長時間労働させ、残業代を払っていないケースも見られますが、それは今後ますますリスクが高い運用となります。
実際、「名ばかり管理職」といった運用と実態の相違に関しては多数の訴訟例もあります。このような訴訟リスクを未然に防ぐためにも、管理職の待遇と役割を見直し、適正な労働時間管理を行うことが経営上ますます重要になっています。
以上が時間外労働や労働時間の上限規制に関する主な改正内容です。背景には「長時間労働是正で従業員の健康を守る」という強いメッセージがあります。一方で、「残業規制で収入が減り生活が苦しい層もいる」という現実から、「働きたい人にはもっと働ける選択肢を」との声も少なからず出てきており、36協定の特別条項の上限規制部分などについてはまだまだ議論の余地が残されている状況です。
ただし、現場レベルでは「これ以上はもう無理」という悲鳴も多く、むしろ「ちゃんと休める会社」の方が人材を確保しやすい時代です。今回の法改正は、このような潮流の中で無理な長時間労働に歯止めをかけ、持続的に働ける環境を作ることを目指すものだと言えるでしょう。
「つながらない権利」の制度化動向と論点
「つながらない権利」とは、勤務時間外や休日に仕事上の連絡が来ても、それに応答しない権利のことです。
2017年に世界で初めてフランスが法律で導入し、その後EU各国やカナダなどでも普及した概念として知られています。スマートフォンやチャットツールの普及により、場所や時間を問わず常につながれてしまう働き方への反省から生まれた労働者の新しい権利です。
中小企業の現場では、勤務時間外の連絡が暗黙の長時間労働に繋がるケースが少なくありません。
典型的な例として、次のような状況が挙げられます。
- 上司が深夜や休日に部下へ業務連絡(電話・メール・LINEなど)を送る。
- 部下は「返事しないと申し訳ない」と感じ、心理的に無視できない。
- 顧客から休日に急な依頼がきて、担当営業としては対応せざるをえない。
結果として、常に頭の片隅で仕事のことを考え、24時間「心が仕事モード」から離れられなくなります。
一方、経営者や上司側には「これは緊急だから仕方ない」「今日だけは連絡しないと回らない」など毎回が例外的な緊急対応だと思い込んでしまう傾向も見られます。しかし、その延長線上で毎日が緊急事態のようになってしまっては本末転倒です。このような「休みの日くらい心も休ませる」という発想の欠如が、若手社員の静かな退職(いわゆるフェードアウト)を招く要因にもなっています。
就業規則や社内マニュアルにおけるガイドライン対応の検討ポイント
- 業務連絡をして良い時間帯の明確化
例えば、「原則として夜21時~翌朝6時、および休日は業務連絡禁止」のような形を示し、どうしても必要な場合は上長の許可を得るといった運用を徹底することなど。 - 緊急連絡の定義
例えば、「人命・会社存続に関わる重大事のみ」など、何が「緊急」に当たるのか事前に社内で共有しておくことなど。 - 対応しなかった場合の不利益禁止
時間外に連絡に応答しなかったことが人事考課に影響しないことを明記し、周知することなど。
こうした取り決めを予めしておくだけでも、社員は「休んでもいいんだ」という安心感を持てますし、管理職側も安易な連絡を控える意識が芽生えます。実際には緊急対応がゼロにはならなくても、「会社としてオフを尊重する姿勢」を示しておくこと自体が重要です。
なお、企業側としては単にルールを作って終わりではなく運用と啓発をすることが必要です。例えば、社内研修等で管理職に対し「部下の私生活を尊重するマネジメント」を教育したり、全社員へ「連絡が来ても対応は任意である」ことを周知徹底しましょう。法改正を契機に、会社全体で仕事と休息のメリハリを見直すことが、結果的に従業員のエンゲージメントや定着率向上にも繋がります。
その他の注目ポイント(休日ルールの明確化・有給制度の見直し等)
2026年改正では上記以外にも、実務に影響の大きい労働時間・休暇制度の見直しが予定されています。
法定休日の事前特定義務化
現行では、就業規則上で週どの曜日を「法定休日」(法律上最低限与えるべき休日)とするか明確な規定がなくても違法ではありません。しかしそれが原因で「今週の日曜は法定休日か法定外休日か?」と現場で混乱し、休日出勤手当の割増率(法定休日なら+35%、それ以外は時間外扱いで+25%など)の計算ミスやトラブルに繋がりがちでした。
改正後は就業規則において会社が法定休日を明示的に定めることが義務化される方向が検討されています。例えば「当社の法定休日は毎週日曜日とする」といった具合です。これにより休日出勤の割増計算を明確にし、労使間の無用な揉め事を減らす狙いがあります。
また、振替休日制度を利用する場合の具体的手続きや、振替先はできるだけ近接した日にすること等、休日運用に関するルールの厳格化も検討されています。就業規則の休日欄を見直し、適切に記載しておく必要があるでしょう。
年次有給休暇の賃金計算方法の統一
パートタイマーやシフト制で勤務する社員が有給休暇を取得すると「その日に働いていたらもらえたはずの賃金」より支給額が少なくなってしまう場合があるのをご存知でしょうか?
現行法では、有給休暇取得時の賃金について企業が「平均賃金」「通常の賃金」「健康保険法の標準報酬日額相当額」の3方式から選択できます。多くの企業では「通常の賃金」が選択されていますが、もしも「平均賃金方式」を選んでいた場合、勤務日数が少ない人ほど有給取得日の賃金が低額になり、有給を取ると損をするおかしな状況が生じていました。
改正案ではこれを是正するため、有給休暇取得時の賃金は一律「通常の賃金(その日働いていれば支払われた額)」で支払うよう統一されます。シンプルかつ公平なルールになるため、労働者は安心して有給を取得しやすくなるでしょう。企業側では、就業規則の該当箇所や給与計算システムをこの方式に合わせて修正する対応が必要です。
副業・兼業時の労働時間通算ルール見直し
現在、社員が副業をしている場合「事業主が異なっても労働時間を通算して残業代計算する」という原則があります。
例えば、ある日にA社で6時間働いた後にB社で3時間働くことになったら、B社の3時間はA社と通算することが必要になり、法定超過とみなし割増賃金が必要ということなのですが、実際問題として他社での労働時間を完全に把握するのは困難でこのルールが副業普及の足かせにもなっていました。
改正案では、各社ごとに独立して労働時間管理を行う「分離方式」の導入が検討されています。これが実現すれば企業は他社の残業時間を気にせず副業を認めやすくなります。一方で、副業者自身の長時間労働による健康リスクには引き続き配慮が求められ、労働時間の相互通知や健康管理措置のルールは整備される見込みで話し合われています。
フレックスタイム制の柔軟化
テレワークと出社日が混在する働き方に対応するため、フレックス制と通常勤務を組み合わせやすくする見直しも検討されています。
現行ではフレックス制適用日はその期間中すべてフレックスにする必要がありますが、改正後は「コアデイ」を設定して一部曜日だけ通常勤務にするなどの運用が可能になる方向です。これによりテレワーク日だけフレックス、出社日は定時勤務といったハイブリッドな働き方が制度上もしやすくなりますが、実務上では勤怠管理部門の負担等を考慮する必要があります。
中小企業では、制度をよく理解した上で部分導入から試すなど、従業員のニーズに応じた柔軟な勤務制度を検討するとよいでしょう。
以上、2026年改正に絡む主な制度変更点を挙げました。これらの変更はいずれも「従業員の健康・安心を守り、現代の多様な働き方に合わせる」ことを目的としています。中小企業にとっては対応すべき事項が多岐にわたりますが、裏を返せば職場環境の改善や働き方の見直しを進める好機とも言えます。
中小企業の労務管理への実務的影響
今回の法改正は、中小企業の労務管理に少なからぬ影響を与えます。
中小企業の労務管理に具体的にどんな影響を及ぼすのか、また実務対応として何をすべきか、特に就業規則の変更や勤怠管理の方法見直しなど、制度対応のために準備すべき実務についての影響についてポイントを整理します。
就業規則の改訂
改正内容に対応して社内規程を見直す必要があります。具体的には、休日の規定では「法定休日は○曜日」と明記し、振替休日の手順等も細かく定める必要が出てきます。
また、勤務間インターバルや連続勤務上限について新たな項目を設け、「〇〇の場合は翌日の始業を遅らせる」「14日連続を超えて勤務させない」といったルールを規程化することになります。さらに、「勤務時間外の連絡禁止」に関するポリシーや管理職の労働時間把握方法なども、必要に応じて就業規則や管理職規程に織り込むと良いでしょう。
これらの変更は社内周知も伴いますので、社員への説明会開催や書面配布などの準備も必要になります。
勤怠管理システム・シフト運用の見直し
勤務間インターバルの11時間や、13日連続勤務禁止が義務化されれば、勤務シフトの作成時に自動チェックがかかるシステムの改修や、運用ルールの変更が必要です。
例えば交代制の勤務シフトの職場では、従来は「夜シフト明けの翌朝に早番」という無理な配置も黙認されていたかもしれませんが、今後はシフト作成段階でNGになる可能性があります。結果として「今までの人員配置では業務が回らない」可能性もあり、特に小売・飲食・介護・運送など人手不足でシフトが回らない業界では、追加の人員採用や外注活用も検討しないと、改正後の基準を満たしつつ現状の営業日・営業時間を維持するのは難しいかもしれません。
「現行の営業形態のままで本当に回るのか?」という根本的な見直しが必要になるケースもあるでしょう。
残業代コスト・労務コストの増減
これまで、週44時間特例を利用していた事業場では、この特例が廃止されることになると週40時間超の労働時間分が全て残業代支払い対象となります。月60時間超残業の5割増割増賃金も既に始まっていますから、残業によって支払う割増賃金についてコストは確実に上昇します。
加えて、有給休暇取得時の賃金計算方法の統一により、平均賃金方式を選択していた職場では、パート社員等の有給取得時の支給額が増える場合も考えられます。
一方、副業時の残業代通算不要ルールが導入されれば、他社勤務分の割増賃金負担は軽減される可能性があります。なお、自社社員の副業による過重労働リスクに関しては引き続き注意が必要です。
労働時間の「見える化」とコンプライアンス対応
改正案には、従業員や求職者への労働時間情報の開示に関する検討も含まれています。
例えば、社内の衛生委員会で長時間労働の状況を報告したり、36協定締結時に従業員代表へ実績残業時間を提示することを義務付ける案などです。将来的には求職者にも自社の平均残業時間を開示する仕組みが検討されるかもしれません。
この流れによって、長時間労働が常態化している会社は人材採用で敬遠されますし、隠そうにも隠せなくなるでしょう。実際、最近では地方の中小企業でも求人票に「完全週休二日」「年間休日○○日」など休日・残業情報を明示する動きが年々増えています。
「たくさん働けます」より「ちゃんと休めます」の方が人材獲得には有利になりつつあり、企業としては、法令対応というだけでなく人材戦略上も労働時間の適正化は避けて通れない課題と言えます。
従業員教育・風土改革
新しいルールを単に形だけ導入しても、現場意識が変わらなければ効果は上がりません。
例えば「つながらない権利」の趣旨を従業員全員が理解していなければ、制度があっても結局「休みの日に連絡してしまう・返事してしまう」ことが続いてしまいます。経営者や管理職に対する労務コンプライアンス研修や、従業員への周知・啓蒙が欠かせません。特に中小企業では「家族的経営」の名の下に勤務時間のけじめが曖昧なケースもありますが、これを機に働くときは働き、休むときは休むメリハリを組織風土として根付かせる努力が必要です。
以上のように、法改正は中小企業の労務管理全般に多方面の影響を及ぼします。
しかし見方を変えれば、「長時間労働に頼らない組織運営」への転換チャンスとも言えます。無理な働かせ方を是正し、適正な労働環境を整えることは、従業員の健康保持だけでなく企業の持続的成長にもプラスになると考え、また、自社だけではなく社会全体として取り組むべき対応であると認識することが必要です。
経営者が準備すべき対応と人事制度見直しのポイント
法改正を目前に控え、経営者が具体的にどのような対応策を講じるべきか、中小企業の経営者が取るべきアクションをまとめます。ポイントは「早めの着手」と「自社の実態に即した対応」ですので、計画的に準備を進めましょう。
自社の労務実態を点検
まずは現状把握として、残業時間や休日取得状況、シフトの組み方、勤務間インターバルの確保状況を洗い出しましょう。あわせて、管理職の働き方(タイムカード未記録のサービス残業がないか、役職と待遇が見合っているか)も確認する必要があります。現状を客観データで把握することで、どの改正点が自社の課題になりそうか見えてきます。
例えば「月の残業が恒常的に50時間を超えている部署がある」「店長が毎日終電まで働いている」等が判明すれば、その部分は重点的な対応が必要です。
優先課題の特定と対応策の検討
点検結果を踏まえ、改正への対応シナリオを描きます。
例えば、勤務間インターバル11時間を満たせていない交代制部署があるなら、人員増やシフト再編が必要です。14連勤に近い働き方をさせていたなら、営業日を再検討するか休日代替要員を確保するか検討します。残業削減が難しい業務には業務効率化(IT化・アウトソーシング)を導入できないか、管理職の役割は適正か(名ばかり管理職の改善)等、人事戦略・業務戦略と合わせて具体策を議論しましょう。
就業規則・諸制度の整備
点検と対応策の検討後、運用面の対応として規程改定事項を洗い出し、社内ルールをアップデートしていく必要があります。法案が成立し、改正内容の詳細が固まってからでも遅くありませんが、今のうちから対応施策や規則・制度の改正点を案として準備しておくとスムーズです。
「法定休日は日曜とする」「勤務間インターバルは11時間(やむを得ない場合○時間まで短縮可)」等、就業規則の改訂案を社会保険労務士などの専門家に確認してもらいましょう。併せて、労働時間管理や休暇取得に関する社内の細則(マニュアル類)も整備し、現場に周知します。
従業員への周知・研修
改定した社内ルールは全社員に説明し、理解を促す必要があります。「形だけ規程に書いて誰も読んでいない」では意味がありません。社員説明会や研修の場を設け、「どうしてこのルールが必要なのか」「守らないと会社・個人にどんなリスクがあるか」を啓蒙しましょう。
例えば「インターバル違反があると会社に罰則が科される可能性がある」「上司が部下に深夜連絡するとハラスメントと見なされる恐れもある」等、具体例を挙げて伝えると効果的です。また管理職向けには別途、労務管理研修を実施し、部下の労働時間や健康に配慮したマネジメント方法を教育します。
働き方改革の推進と職場環境の再構築
法改正対応を契機に、自社の働き方全般の見直しも必要になる場合があります。
例えば「本当に必要な残業か?業務プロセスの改善で削減できないか?」を各部署で議論させたり、有給休暇取得促進策を強化したりするのもよいでしょう。柔軟な働き方(フレックス制や短時間有休制度)の導入拡大も、従業員満足度向上につながります。従業員が安心して休めて効率良く働ける職場は、結果的に生産性も上がり、人材定着・採用力アップにも直結します。
採用の難易度が高くなっている昨今、今回の法改正への対応を「コスト負担」と捉えるだけでなく、職場改善の投資と前向きに捉えて取り組むことで魅力ある職場づくりを設計する機会ととらえましょう。
専門家への相談・支援の活用
自社だけで対応が難しい場合、遠慮なく社会保険労務士をはじめとして、人事労務に詳しいコンサルタントや弁護士など専門家に相談しましょう。法改正への対策例や労働時間制度の設計見直しについてプロの意見を仰ぐことで、自社では気づかないリスクの発見や最適な設計プロセスの提案を受けられます。
また、各種団体や自治体が開催する法改正対応セミナーや研修会に経営者・人事担当者が参加するのも有効です。そうした場では最新情報の入手だけでなく、他社の取り組み事例も学べるため、自社で取り入れる場合のヒントになります。
その他、制度がある程度固まってきた場合にも、必要に応じて専門家を招いた社内研修(管理職研修、従業員向け説明会)を開催し、第三者視点から話を聞くという経験を通じて、社員の意識改革に繋げるのも良いと思われます。
苦慮しているのは自社だけではない、勝機はここにあり
約40年ぶりとなる大規模な法改正となり、その影響を受けるのは自社だけではなく社会全体といっても過言ではありません。一方、こうしたタイミングで考えていただきたいのは、「ただ単に法律を守るためだけでなく、自社の人事制度や職場文化をより良くする機会と捉えること」です。
長時間労働是正や「つながらない権利」の尊重は、従業員の健康と幸福度を高め、結果的に企業の生産性や持続性も向上させる投資となります。法違反のリスクを減らすことはもちろん、これを機に「働きやすく、休みやすい会社」へと進化できれば、必要最低限の打ち手しか講じなかった他社と比較して、働き手からは魅力ある職場として認識され、人手不足の時代でも選ばれやすい企業となる可能性があります。
2026年の労基法改正は中小企業にとって大きなチャレンジですが、裏を返せば組織改革の追い風です。ぜひ積極的に情報収集と準備を行い、自社に最適な対応策を講じてください。なお、自社にノウハウが無いため力を借りたい、自社で取組みたいがアドバイザリーをお願いしたいといった方はぜひお気軽にお問い合わせください。
“早めの準備と前向きな行動で、改正を「ピンチ」ではなく「チャンス」に変えていく”
当事務所では労務相談や人事制度設計、法改正対応研修、管理職向けの労務管理研修など多数の実績がありますので、ノウハウを元に、皆様の職場づくりを全力でサポートし、貴社に合った最適解を見つけるお手伝いをいたします。
